あるハンドメイドの時計工房からの仕事も請けている。
文字盤の装飾だが、この仕事は、共に地域資源活用事業に認定を受けている事からの縁である。

職人の現場は常に挑戦の日々であり、新たな分野からや、手がけた事がない仕事こそ技術の発揮できるステージだ。また意匠デザインに関しても、他分野とのつながりこそ新しい表現や手法の考案の糧である。

なにせ制約も多い中でも仕上げの装飾の厚みが半端ではないのだ。0.2mmの厚みの中で螺鈿や漆塗りや蒔絵を行うのであり、常に傍らに電子ノギスがある。

漆塗りは通常1回の塗り厚みは0.05mmなのだが、薄貝螺鈿は0.1~0.07mmほどで、漆塗りは何度も塗り重ねるが塗っては研ぎ塗っては研ぐを、重ねる事で厚みを最小限に仕上げる。研材は蒔絵炭でなくては薄く平滑には研げない。金属の文字盤には焼付け漆を施すが、下地塗りの際に布着の替わりに手漉きの極薄い美濃紙(文化財の修理修復に使う和紙で現在では入手が困難なもの)を漆と馴染ませて仕上げていく。

細かく割りあらためて組合せた螺鈿に関しては、無駄な厚みを作らないで、しかも平滑に研ぎ仕上げても真珠層を生かすためにも厚みをむやみに減らさない。その為には貝を割る前に表になる面を研ぎ磨いて平滑にしてそれを割り、その表て面を平滑な台紙に組み張りし合わせたものを逆貼りして仕上げるなど、従来ない特殊な技法である。

ここまでに気持ちを注ぎ込めるのも、相手先のものづくりに対する考え方が共感できるからだ。

制約の多い中で、幾つもの技法を組合せて仕上げるのだが、ここへ来るまでにかなりの試作が重ねられた。だがそれにより工房は多様な技術や可能性を得たのである。